設計演習:エッチング装置の排気系を通しで計算する
RIEエッチャーを題材に、バッフル板を含むコンダクタンス合成・実効排気速度・到達圧力・プロセス圧制御・粗引き時間を一貫して計算する
設計演習:エッチング装置の排気系を通しで計算する
これまでの記事で学んだ道具(コンダクタンス、実効排気速度、到達圧力)を、1台の装置で通して使う演習です。題材はドライエッチング装置(RIE)。数値は教材用に単純化していますが、計算の流れは実際の装置設計と同じです。
題材の装置構成
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| チャンバー | SUS304 円筒、内径 φ400 mm × 高さ 400 mm(容積 約 50 L) |
| バッフル板(整流板) | ステージ下の円板 φ380 mm。チャンバー壁との間に幅 10 mm の環状隙間 |
| 主排気 | ターボ分子ポンプ(TMP)排気速度 1,500 L/s(N₂) |
| 接続 | φ250 ゲートバルブ + φ250 × 長さ 300 mm の接続ダクト |
| 粗引き | ドライポンプ 1,000 L/min(= 16.7 L/s) |
| プロセス | CF₄ 100 sccm、プロセス圧 2 Pa(APC バルブで制御) |
装置断面図
ガスは上部電極(シャワーヘッド)から導入され、ウエハ上を通ったあと、バッフル板外周の環状隙間を抜けて下部の排気プレナムへ流れ、ゲートバルブ・ダクトを経て TMP に排気されます。
設計で答えるべき問いは4つです。
- ベース圧到達時(分子流)の実効排気速度はいくらか
- 到達圧力(ベース圧)はどこまで下がるか
- プロセス中の圧力 2 Pa はどうやって作るか
- 大気圧からの粗引きに何秒かかるか
Step 1:排気経路の要素分解とコンダクタンス
ベース圧付近(10⁻⁴ Pa 以下)ではクヌッセン数が大きく、分子流で評価します(流れの種類)。断面図のとおり、ガスがチャンバーから TMP に至るまでに通る要素は3つです。
① バッフル板外周の環状隙間(φ400 壁 − φ380 板、幅 10 mm)
薄い環状開口とみなすと、開口面積は:
N₂・室温のオリフィス実用値 11.8 L/s·cm²(コンダクタンスとは参照)を使うと:
なお、板の下を半径方向に長く流れる構造(リングスリット)の場合はこれより小さくなります。計算ツールの「リングスリット(半径方向流れ)」形状で評価できます。
② ゲートバルブ開口(φ250、薄い開口とみなす)
開口面積 A = π × 12.5² ≈ 491 cm²:
③ 接続ダクト(φ250 × 300 mm、長管式)
④ 直列合成
注目すべきは内訳です。全抵抗(1/C)のうち約7割をバッフル隙間が占めています。φ250 の立派なバルブとダクトを用意しても、律速はステージ脇の 10 mm の隙間——直列合成では最小のコンダクタンスが支配する、の典型例です。
Step 2:実効排気速度
バッフル板がない場合(C ≈ 3,000 L/s)は S_eff ≈ 1,000 L/s なので、バッフル板によって実効排気速度は約4割減っています。それでも付けるのは:
- 排気の対称性:ウエハ全周から均等に引くことで、プラズマ・ガス流の面内分布を整え、エッチングの均一性を確保する
- ポンプの保護:プラズマや反応生成物・パーティクルが TMP へ直撃するのを防ぐ
という、排気速度と引き換えにする価値がある機能のためです。「コンダクタンスの犠牲がいくらか」を数値で把握した上で隙間寸法を決めるのがバッフル設計の要点です。たとえば隙間を 15 mm に広げると A ≈ 181 cm² → C₁ ≈ 2,140 L/s、合成 C ≈ 1,240 L/s、S_eff ≈ 680 L/s と改善しますが、整流効果は弱まります。
多孔板タイプのバッフル(小穴を多数開けた板)の場合は、各穴のオリフィスコンダクタンスの並列和で見積もります。例:φ10 mm の穴 200 個なら 11.8 × 0.79 cm² × 200 ≈ 1,900 L/s(板厚があると短管補正でさらに2〜4割減)。
Step 3:到達圧力(ベース圧)
到達圧力はガス負荷と実効排気速度の釣り合いで決まります:
ガス負荷を見積もります(アウトガスの記事)。
- チャンバー内表面積: 円筒側面 0.50 m² + 上下面 0.25 m² + 電極・バッフル・治具類 0.35 m² ≈ 1.1 m²(バッフル板は両面がガス放出面になることに注意)
- アウトガスレート(SUS 未ベーク、排気10時間後): q ≈ 3×10⁻⁶ Pa·m³/(s·m²)
- アウトガス負荷: Q ≈ 3.3×10⁻⁶ Pa·m³/s ≈ 3×10⁻³ Pa·L/s
- Oリング(Viton)からの放出・透過を上乗せして、余裕を見て Q_total ≈ 5×10⁻³ Pa·L/s とします
未ベークでも一晩引けば 10⁻⁵〜10⁻⁶ Pa 台に入る計算です。ただしこれは表面が乾いている場合の話で、大気開放直後・チャンバー洗浄直後は吸着水により1〜2桁悪化します。エッチング装置で「メンテ後はベース圧が戻るまで一晩」と言われるのはこの時間依存(q ∝ 1/t)のためです。
Step 4:プロセス圧 2 Pa の作り方
プロセス中は、ガスを流しながら排気する流量バランスで圧力が決まります:
まずガス導入量を単位換算します。1 sccm(標準状態で 1 cm³/min)は:
なので CF₄ 100 sccm は Q ≈ 169 Pa·L/s です。
もし排気全開(S_eff ≈ 590 L/s)で引くと:
となり、目標の 2 Pa まで上がりません。そこで APC バルブ(自動圧力調整バルブ)で排気を絞り、実効排気速度を落とします。2 Pa にするために必要な実効排気速度は:
つまり運転中の排気系は「590 L/s の能力を 85 L/s まで絞って使う」状態です。プロセス圧の制御とは、ガス導入量と実効排気速度の比の制御にほかなりません。ガス流量を増やすレシピ変更をすると、同じ圧力を保つためにバルブ開度が開き側に動く——という装置挙動もこの式から読めます。
2点補足します:
- 2 Pa では λ ≈ 3.3 mm で、バッフル隙間 10 mm に対して Kn ≈ 0.33、φ250 ダクトに対して Kn ≈ 0.013 と、経路の場所によって流域が異なる状態です。分子流の値をそのまま使った上の見積もりは保守的(小さめ)です
- CF₄(M = 88)は N₂ より重く、分子流コンダクタンスは √(28/88) ≈ 0.56 倍になります(ガス物性)。精密には使用ガスでの再計算が必要です
Step 5:粗引き時間
大気圧から TMP を起動できる圧力(ここでは 10 Pa とします)までは、ドライポンプで容積排気します。体積 V のチャンバーを排気速度 S で引くときの排気時間は:
V = 50 L、S = 16.7 L/s、10⁵ Pa → 10 Pa なら:
実際にはポンプの排気速度が低圧側で低下すること、配管の絞り、アウトガスの寄与により、この2〜3倍を見込むのが現実的です。スループット重視の量産装置でロードロック室を設ける(チャンバー本体を大気開放しない)のは、この粗引き+ベース圧回復の時間を丸ごと省くためです。
まとめ:設計チェックの流れ
- 経路を要素に分解し、分子流でコンダクタンスを合成する(バッフル隙間・バルブ・ダクト。開口+管の直列で)
- 律速要素を特定する — この例ではバッフル隙間が全抵抗の約7割。太いバルブより先に隙間寸法を検討すべき
- S_eff = SC/(S+C) — バッフルの整流効果とコンダクタンス損失のトレードオフを数値で決める
- ベース圧 = Q/S_eff — 表面積とアウトガスレートから負荷を見積もる。バッフル板の裏表も放出面
- プロセス圧 = Q_gas/S_eff — sccm を Pa·L/s に換算し、APC バルブの制御範囲に収まるか確認する
- 粗引き時間 = (V/S)ln(P₀/P₁) — TMP 起動圧までの時間を見積もる
この記事の各ステップの計算は、コンダクタンス計算ツールで形状・ガス種を変えながら再現できます。数値を差し替えれば、スパッタ装置やCVD装置でもそのまま使える手順です。