到達圧力を決めるもの — リークとアウトガス

ガス負荷の考え方、アウトガスレート、Heリークテストの基礎

到達圧力を決めるもの — リークとアウトガス

ポンプを回し続けても圧力が下がりきらないとき、装置の中では排気とガス発生が釣り合っています。到達圧力は次の単純な式で決まります:

Pult=QtotalSeffP_{ult} = \frac{Q_{total}}{S_{eff}}

  • QtotalQ_{total}:全ガス負荷 [Pa·m³/s]
  • SeffS_{eff}:チャンバーから見た実効排気速度 [m³/s]

到達圧力を 1 桁下げるには、「排気速度を 10 倍にする」か「ガス負荷を 1/10 にする」しかありません。そして高真空以下では、たいていガス負荷を減らすほうが効果的です。

ガス負荷の内訳

Qtotal=Qleak+Qoutgas+Qperm+QprocQ_{total} = Q_{leak} + Q_{outgas} + Q_{perm} + Q_{proc}

  1. リーク(QleakQ_{leak}: シール不良、溶接欠陥、傷などによる実漏れ
  2. アウトガス(QoutgasQ_{outgas}: 材料表面からの放出ガス。高真空〜UHVでの支配要因。大半は表面に吸着した
  3. 透過(QpermQ_{perm}: O リングなどを透過してくるガス(例:Viton を透過する He・空気成分)
  4. プロセスガス(QprocQ_{proc}: 意図的に導入するガス

アウトガスレートの目安

アウトガスは単位表面積あたりの放出速度 qq [Pa·m³/(s·m²)] で評価し、Qoutgas=q×AQ_{outgas} = q \times A(A:表面積)で見積もります。

材料・状態q の目安 [Pa·m³/(s·m²)]
ステンレス(未ベーク、排気1時間後)10⁻⁵ 〜 10⁻⁴
ステンレス(未ベーク、排気10時間後)10⁻⁶ 前後
ステンレス(150〜250℃ベーク後)10⁻⁹ 〜 10⁻⁸
アルミ(表面処理+ベーク後)10⁻⁹ 台
Viton(ベーク後)10⁻⁷ 前後

(値は文献・表面状態によって 1〜2 桁変わります。オーダーの目安としてください)

未ベークのアウトガスはおおむね時間に反比例(q1/tq \propto 1/t)して減っていきます。「一晩引けば 1 桁下がる」という現場感覚はこれに対応します。ベーキングが UHV 到達の決定打になるのは、吸着水を強制的に追い出せるからです。

排気曲線の読み方

大気圧からの排気は 3 つのフェーズに分かれます:

  1. 体積排気: チャンバー内の気体そのものを排気。指数関数的に圧力低下(PetS/VP \propto e^{-t \cdot S/V}
  2. アウトガス律速: 表面からの放出ガスと排気が釣り合いながらゆっくり低下(P1/tP \propto 1/t に近い)
  3. リーク・透過律速: 一定圧力で頭打ち

「圧力が頭打ちで、時間が経っても全く下がらない」ならリークを疑い、「ゆっくりでも下がり続けている」ならアウトガス、というのが一次切り分けです。

He リークテスト

リークの定量にはヘリウムリークディテクタ(質量分析計を He に同調させたもの)を使います。

  • スプレー法(真空法): 装置を排気しながら外から He を吹きかけ、吸い込まれた He を検出。リーク箇所の特定が可能
  • リークレートの単位は Pa·m³/s(1 Pa·m³/s = 10 mbar·L/s)
  • 目安として、UHV 装置では 10⁻¹⁰ Pa·m³/s 台以下が合格ラインとされることが多い

He が使われる理由は、①大気中濃度が低い(バックグラウンドが小さい)、②分子が小さく軽いため微小な隙間でも速く流れる(ガス種の記事参照)、③不活性で安全、の 3 点です。

まとめ

  • 到達圧力は Q/SeffQ/S_{eff}分子と分母の両方に手を打てる
  • 高真空以下の主敵は吸着水のアウトガス。ベーキングが最も効く
  • 頭打ちならリーク、漸減ならアウトガス
  • 排気速度側の改善は実効排気速度の記事計算ツールで定量評価を