ガス物性と温度の影響

分子量・粘性係数・平均自由行程がコンダクタンスに与える影響

ガス物性と温度の影響

コンダクタンス計算に必要なガス物性は、分子流では分子量、粘性流では粘性係数です。この記事では計算ツールにプリセットされている 13 種のガスの特徴と、温度の影響を整理します。

プリセットガスの分子量

ガス化学式分子量 [g/mol]主な用途・場面
水素H₂2.02還元プロセス、UHV での主要残留ガス
ヘリウムHe4.00リークテスト、クライオ
メタンCH₄16.04プロセスガス
ネオンNe20.18放電管、校正
窒素N₂28.01パージ、ベント、基準ガス
一酸化炭素CO28.01残留ガス分析
酸素O₂32.00酸化プロセス
アルゴンAr39.95スパッタリング
二酸化炭素CO₂44.01残留ガス分析
四フッ化炭素CF₄88.00ドライエッチング
クリプトンKr83.80ランプ、同位体分析
キセノンXe131.29イオンエンジン、ランプ
六フッ化硫黄SF₆146.06絶縁ガス、エッチング

真空機器のカタログ値(排気速度、コンダクタンス)は特記なき限り N₂ 基準です。他のガスで使う場合は換算が必要です。

分子流:分子量がすべて

分子流のコンダクタンスは CT/MC \propto \sqrt{T/M} です。ガスによる違いはこの平方根の比だけで決まります。

CgasCN2=MN2Mgas\frac{C_{gas}}{C_{N_2}} = \sqrt{\frac{M_{N_2}}{M_{gas}}}

H₂ は N₂ の約 3.7 倍流れやすく、SF₆ は半分以下です。

粘性流:粘性係数が効く

粘性流(層流)のコンダクタンスは粘性係数 η\eta に反比例します:

Cd4PˉηLC \propto \frac{d^4 \bar{P}}{\eta L}

粘性係数は分子量とは単純に比例しません。たとえば He は分子量が小さいのに粘性係数は N₂ より大きく、H₂ は特に粘性が低いガスです。分子流での序列と粘性流での序列は一致しないため、圧力領域を確認してから物性を選ぶ必要があります。計算ツールのプリセットには各ガスの粘性係数が登録されており、選択するだけで正しい値が使われます。

平均自由行程と圧力

流れの種類の判定に使う平均自由行程 λ は圧力に反比例します:

λ=kBT2πdm2P\lambda = \frac{k_B T}{\sqrt{2} \pi d_m^2 P}

N₂・室温での目安は「λ [mm] ≈ 6.6 / P [Pa]」です。

  • 大気圧(10⁵ Pa): λ ≈ 66 nm
  • 1 Pa: λ ≈ 6.6 mm
  • 10⁻³ Pa: λ ≈ 6.6 m

配管径と λ が同じオーダーになる圧力帯が中間流領域です。

温度の影響

分子流では CTC \propto \sqrt{T} です。ベーキング(例:150℃ = 423 K)中は室温(293 K)に比べて:

4232931.20\sqrt{\frac{423}{293}} \approx 1.20

と約 20% コンダクタンスが増えます。影響は比較的小さいものの、正確な排気シミュレーションでは考慮すべき因子です。粘性流では温度は粘性係数の変化を通じても効いてくるため、より複雑になります。

計算ツールでは温度を入力パラメータとして指定できるので、運転条件に合わせた評価が可能です。