実効排気速度と配管設計の基本

ポンプの排気速度が配管でどれだけ損なわれるかを定量的に理解する

実効排気速度と配管設計の基本

「大きなポンプに交換したのに圧力が下がらない」——真空装置の設計・改造で最もよくある失敗は、配管のコンダクタンスを考慮していないことが原因です。

実効排気速度

排気速度 SS のポンプを、コンダクタンス CC の配管を介してチャンバーに接続すると、チャンバーから見た実効的な排気速度 SeffS_{eff} は次式で表されます。

1Seff=1S+1C\frac{1}{S_{eff}} = \frac{1}{S} + \frac{1}{C}

整理すると:

Seff=SCS+CS_{eff} = \frac{S \cdot C}{S + C}

この式から重要な性質が読み取れます。

  • C=SC = S のとき、Seff=S/2S_{eff} = S/2ポンプ性能の半分しか使えません
  • CSC \gg S のとき、SeffSS_{eff} \approx S。配管の損失は無視できます
  • CSC \ll S のとき、SeffCS_{eff} \approx Cどんな大型ポンプを付けても配管で頭打ちになります

計算例:TMP 300 L/s + φ100mm × 1m の配管

排気速度 300 L/s のターボ分子ポンプ(TMP)を、内径 100 mm・長さ 1 m の円管でチャンバーに接続する場合を考えます。

分子流領域の長い円管(N₂、20℃)のコンダクタンスは、実用式で次のように概算できます(d, L は cm 単位):

C12.1d3L [L/s]C \approx 12.1 \frac{d^3}{L} \ \mathrm{[L/s]}

数値を代入すると:

C12.1×103100=121 L/sC \approx 12.1 \times \frac{10^3}{100} = 121 \ \mathrm{L/s}

したがって実効排気速度は:

Seff=300×121300+12186 L/sS_{eff} = \frac{300 \times 121}{300 + 121} \approx 86 \ \mathrm{L/s}

300 L/s のポンプが、実質 86 L/s(約 29%)しか働いていないことになります。ここでポンプを 600 L/s に倍増しても Seff101S_{eff} \approx 101 L/s にしかなりません。一方、配管を φ150mm に太くすると C408C \approx 408 L/s となり、元の 300 L/s ポンプのままで Seff173S_{eff} \approx 173 L/s まで改善します。

直列・並列の合成

複数の配管要素(直管、エルボ、バルブなど)が直列に接続されている場合:

1Ctotal=1C1+1C2+\frac{1}{C_{total}} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} + \cdots

並列の場合は単純な和になります:

Ctotal=C1+C2+C_{total} = C_1 + C_2 + \cdots

抵抗(コンダクタンスの逆数)で考えると、電気回路のオームの法則と同じ形です。

設計チェックリスト

  1. 太く、短く、まっすぐに — 分子流の円管では Cd3/LC \propto d^3/L。直径を 1.5 倍にすればコンダクタンスは約 3.4 倍
  2. ポンプはチャンバー直付けが理想 — バルブ 1 枚、ベローズ 1 本にもコンダクタンスがあります
  3. 目標は C ≧ 3S — このとき Seff0.75SS_{eff} \geq 0.75S が確保できます
  4. 律速要素を探す — 直列合成では最も小さい C が全体を支配します。細いオリフィスが 1 つあれば、他をいくら太くしても無駄です

具体的な形状・ガス種ごとの計算は計算ツールで実行できます。