気体の流れの種類

粘性流、中間流、分子流の分類とクヌッセン数による判定方法

気体の流れの種類

真空配管設計では、気体の流れの種類(流域)を理解することが重要です。同じ配管でも、圧力域によってコンダクタンスの式が変わるからです。流れの種類はクヌッセン数(Knudsen number)で判別されます。

平均自由行程

分子が他の分子と衝突してから次に衝突するまでに飛ぶ平均距離を平均自由行程 λ と呼びます。

λ=kBT2πdm2P\lambda = \frac{k_B T}{\sqrt{2} \pi d_m^2 P}

ここで kBk_B はボルツマン定数、dmd_m は分子直径、PP は圧力です。λ は圧力に反比例します。

N₂・室温での実用的な目安は:

λ [mm]6.6P [Pa]\lambda \ \mathrm{[mm]} \approx \frac{6.6}{P \ \mathrm{[Pa]}}

圧力 [Pa]λ(N₂、室温)
10⁵(大気圧)66 nm
10066 µm
16.6 mm
10⁻²66 cm
10⁻⁵660 m

高真空では λ が装置寸法をはるかに超え、分子は他の分子とほぼ衝突せず、壁とだけ衝突しながら飛び回ります。

クヌッセン数

クヌッセン数は、平均自由行程と流路の特性長さ(配管の直径など)の比です:

Kn=λDK_n = \frac{\lambda}{D}

流れの分類

流域条件分子の挙動コンダクタンスの性質
粘性流Kn<0.01K_n < 0.01分子同士の衝突が支配的。連続体として振る舞う平均圧力に比例して増加
中間流(遷移流)0.01<Kn<0.30.01 < K_n < 0.31010両方の効果が混在補間式(Knudsen 式など)で扱う
分子流Kn>0.3K_n > 0.31010壁との衝突のみ。分子は互いに独立圧力によらず一定

(境界の取り方は文献により Kn=0.3K_n = 0.3111010 などばらつきがあります。境界付近では両方の式で計算して比較するのが安全です)

判定の計算例

内径 50 mm の配管で、各圧力のクヌッセン数を計算すると:

  • 100 Pa: λ = 0.066 mm → Kn = 0.0013 → 粘性流
  • 1 Pa: λ = 6.6 mm → Kn = 0.13 → 中間流
  • 10⁻² Pa: λ = 660 mm → Kn = 13 → 分子流

同じ配管が、粗引き中は粘性流、高真空到達後は分子流で動作することが分かります。実務では分子流(コンダクタンスが最小になる条件)で配管を設計するのが基本です(実効排気速度の記事参照)。

粘性流の中の区分:層流と乱流

粘性流はさらにレイノルズ数 Re によって層流と乱流に分かれます。

  • 層流: Re < 約 2000。整った流れ。真空配管の粘性流計算(Hagen-Poiseuille 式)はこちらが前提
  • 乱流: Re > 約 4000。渦を伴う流れ。大気圧付近の高速排気(粗引き開始直後)で一時的に現れることがある

真空装置では乱流が問題になる時間は短く、実用計算のほとんどは層流と分子流(および中間流の補間)でカバーできます。

各流域の計算式

それぞれの流域での具体的なコンダクタンス計算式は各形状のコンダクタンス計算式を、ガスによる違いはガス物性の記事を参照してください。

計算ツールでは、層流・分子流(Knudsen / Smoluchowski)の各モデルを選択して計算できます。