真空技術の基礎
真空とは何か、圧力単位の換算、真空度の分類と用途を学びます
真空技術の基礎
このページでは、真空技術の基本的な考え方を紹介します。
真空とは
真空は、ガスの密度が非常に低い状態を指します。完全な真空(1つの分子も存在しない状態)は理論的な理想ですが、実際には「大気圧より低い圧力の領域」を真空と呼びます(JIS Z 8126)。
「真空にする」とは、分子の数を減らすことにほかなりません。大気圧の空気 1 cm³ には約 2.5×10¹⁹ 個の分子が含まれています。超高真空(10⁻⁷ Pa)まで排気しても、1 cm³ あたりまだ約 2.5×10⁷ 個——2500万個の分子が残っています。真空技術は「ゼロにする」技術ではなく、「桁を管理する」技術です。
なぜ真空を使うのか
用途を分子の視点で整理すると、真空を使う理由は主に4つです。
- 分子に邪魔されず飛ばす — 蒸着・スパッタの成膜粒子、電子顕微鏡の電子線、加速器のビーム。平均自由行程を装置サイズより長くする必要があります
- 衝突・反応を減らす — 表面分析(XPS、AES)で清浄表面を保つ、真空管・加速器で放電を防ぐ
- 断熱する — 魔法瓶、クライオスタットの真空断熱層。熱を運ぶ分子をなくす
- 圧力差を利用する — 真空チャック、真空成形、凍結乾燥
圧力の単位
国際単位系(SI)では、圧力の単位はパスカル(Pa)です。
真空技術では歴史的な経緯から複数の単位が混在しています。換算表を手元に置いておきましょう。
| 単位 | Pa への換算 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 Pa | 1 | SI 単位。本サイトの標準 |
| 1 kPa | 1,000 | |
| 1 bar | 100,000 | 工業用 |
| 1 mbar | 100 | 欧州の真空機器で多用 |
| 1 Torr | 約 133.32 | 米国系の文献・機器で多用 |
| 1 atm(標準大気圧) | 101,325 |
実務でよく使う近似: 1 Torr ≈ 133 Pa、1 mbar = 100 Pa、大気圧 ≈ 10⁵ Pa。海外メーカーのカタログは Torr や mbar 表記が多いため、換算ミスは装置仕様の読み違いに直結します。
真空度の分類
真空は圧力の範囲によって以下のように分類されます。
| 分類 | 圧力範囲 [Pa] | 代表的な用途 | 主なポンプ |
|---|---|---|---|
| 低真空(粗真空) | 10⁵ 〜 10² | 真空包装、吸着搬送、凍結乾燥 | ロータリー、スクロール |
| 中真空 | 10² 〜 10⁻¹ | プラズマプロセス、熱処理炉 | メカニカルブースター、ソープションほか |
| 高真空(HV) | 10⁻¹ 〜 10⁻⁵ | 蒸着・スパッタ、電子顕微鏡 | TMP、油拡散、クライオ |
| 超高真空(UHV) | 10⁻⁵ 〜 10⁻⁹ | 表面分析、分子線エピタキシー、加速器 | TMP+イオンポンプ+NEG |
| 極高真空(XHV) | 10⁻⁹ 以下 | 重力波検出器、特殊研究 | 特殊構成 |
(分類の境界値は文献により多少異なります)
超高真空はなぜ難しいのか — 単分子層形成時間
圧力が下がると、表面に分子が吸着して単分子層(1層分)ができるまでの時間が延びます。N₂・室温での目安:
- 10⁻⁴ Pa:約 1 秒
- 10⁻⁶ Pa:約 100 秒
- 10⁻⁸ Pa:約 3 時間
つまり「清浄な表面を 1 時間保って実験したい」なら 10⁻⁸ Pa 級の超高真空が必要になります。表面分析装置が UHV を要求するのはこのためです。また UHV では、容器材料からのガス放出(アウトガス)が到達圧力を支配するため、ベーキングや材料選定(多孔質材の記事参照)が重要になります。
次のステップ
- 圧力によって気体の「流れ方」が変わることを学ぶ → 気体の流れの種類
- 圧力の測り方を知る → 圧力計測の基礎
- 配管の流れやすさを計算する → コンダクタンス計算ツール