圧力計測の基礎 — 真空計の種類と使い分け
隔膜真空計・ピラニ・電離真空計の原理、測定範囲、ガス種依存性
圧力計測の基礎 — 真空計の種類と使い分け
真空装置の圧力は大気圧から UHV まで 13 桁以上に及び、単一の真空計でカバーすることはできません。測定原理ごとに得意な圧力域とクセ(特にガス種依存性)を理解して使い分けます。
真空計の分類
真空計は測定原理で大きく 3 系統に分かれます。
| 系統 | 代表例 | おおよその測定範囲 [Pa] | ガス種依存 |
|---|---|---|---|
| 機械式(圧力そのものを測る) | 隔膜真空計(CDG) | 10⁵ 〜 10⁻² | なし |
| 熱伝導式 | ピラニ真空計 | 10⁴ 〜 10⁻¹ | あり |
| 電離式 | 熱陰極(B-A)、冷陰極 | 10⁻¹ 〜 10⁻⁹ | あり |
隔膜真空計(キャパシタンスマノメータ、CDG)
薄い金属ダイヤフラムが圧力差でたわむ量を静電容量の変化として読み取ります。
- 圧力(力)を直接測る唯一の実用方式で、ガス種に依存しません
- プロセス圧力の制御(スパッタ、CVD、エッチング)では事実上の標準
- フルスケールの異なるヘッド(例:1333 Pa、133 Pa、13.3 Pa…)を使い分ける。測定精度が高いのはフルスケールの 10⁻⁴ 以上程度まで
ピラニ真空計(熱伝導式)
加熱したフィラメントから気体分子が熱を奪う量が圧力に依存することを利用します。
- 粗引き〜中真空の監視に安価で便利
- ガス種依存が大きい: 校正は通常 N₂ 基準。He や H₂ は熱伝導が大きいため実際より高い指示、Ar は低い指示になります
- 高圧側(数千 Pa 以上)と低圧側(10⁻¹ Pa 付近)では感度が落ち、指示が信用できなくなります
電離真空計
気体分子を電子衝撃でイオン化し、イオン電流から分子密度を求めます。測っているのは圧力ではなく分子密度であることに注意してください。
熱陰極型(Bayard-Alpert ゲージ)
- 測定範囲はおおむね 10⁻¹ 〜 10⁻⁸ Pa(X線限界により下限が決まる)
- 高真空〜UHV の標準的な真空計
- フィラメントが加熱されるため、それ自身がアウトガス源・ガス分解源になり得る。デガス機能を活用する
冷陰極型(ペニングゲージ)
- 放電を利用。フィラメントがなく堅牢で、大気突入で壊れにくい
- 精度は熱陰極型より劣る。低圧側では放電が不安定になることがある
ガス種依存(相対感度係数)
電離真空計の指示は N₂ 校正が前提です。実際のガスに対しては相対感度係数 で換算します:
| ガス | 相対感度 s(N₂ = 1、目安) |
|---|---|
| He | 約 0.18 |
| H₂ | 約 0.45 |
| N₂ | 1.00 |
| Ar | 約 1.3 |
| Xe | 約 2.9 |
He 雰囲気で指示値 1×10⁻⁵ Pa なら、実際の圧力は約 5.6×10⁻⁵ Pa ——5 倍以上ずれることになります。
設置位置とコンダクタンスの罠
真空計は「そこにある分子」しか測れません。設置位置による系統誤差に注意が必要です。
- ポンプ吸気口の直近に付けると低めに出ます(分子が排気方向へ流れているため)
- ガス導入口やアウトガス源の近くは高めに出ます
- 細い枝管の先に付けた真空計は、枝管のコンダクタンスと真空計自身の排気・放出作用で本体と圧力差が生じます
「プロセスをみたい場所の圧力」と「真空計の指示」は別物になり得る、という意識が重要です。
実用的な構成例
- 粗引きライン: ピラニ(大気圧〜1 Pa の監視)
- チャンバー本体: ワイドレンジゲージ(ピラニ+冷陰極の複合)で大気圧〜高真空を連続監視
- プロセス制御: 隔膜真空計(ガス種非依存の絶対値が必要な場面)
- UHV・ベーク後の評価: B-A ゲージ、必要に応じて四重極質量分析計(QMS)で分圧・残留ガス組成まで確認
全圧だけでなく「何のガスが残っているか」が問題になる段階では、QMS による残留ガス分析(RGA)が有効です。リークとアウトガスの切り分け(前記事参照)にも使えます。